個人的評価: 星3.9(星5満点)
「遠い空の向こうに」や最近では「スパイダーマン ファーフロムホーム」でミステリオ役を務めた名俳優ジェイク・ギレンホールを筆頭に、「メッセージ」などこちらも大物女優として知られるエイミー・アダムスなど豪華なキャストを存分に味わえる「ノクターナル アニマルズ」。
冒頭から裸の太った老母がダンスをするという衝撃的な始まり方をし、ラストも人によって解釈が分かれる非常に芸術度の高い作品。
個人的にはすごく面白く、こうしてブログに書くほど誰かに紹介したくなった程です。
映画のメッセージも解釈によって異なりますが、私の個人的考察を読んでいただければと思います。
ノクターナル アニマルズの映画情報
主要スタッフ
監督 | トム・フォード |
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製作 | ロバート・サレルノ |
原作 | オースティン・ライト「ミステリ原稿」 |
主要キャスト
エドワード/トニー | ジェイク・ギレンホール |
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スーザン | エイミー・アダムス |
ハットン | アーミー・ ハマー |
ボビー・アンディーズ警部補 | ジェイコブ・ マイケル・シャノン |
レイ | アーロン・ テイラー・ジョンソン |
ノクターナル アニマルズのあらすじ
*以下ネタバレありです。
アートギャラリーのオーナーであるスーザンは金持ちでイケメンの夫との関係がうまくいっていない。
そんな中で20年前に別れた夫エドワードから「スーザンへ」と書かれた小説が届く。
「小説」、「スーザンの現実」、スーザンが前夫エドワードと幸せだった時の「回想」の3つの物語を軸に映像が進んでいく。
小説: 主人公はトニー。彼は気弱で妻と娘が犯罪者たちに襲われている中何もできず、言葉に言い表せないくらいひどいことをされた後、最愛の二人を失ってしまう。
現実世界: 夫が仕事のため、NYに行く。夫ともっと愛し合いたいスーザンは電話をかけるがこの電話で浮気をしていたことが発覚。届いた小説を読み、エドワードに思いを馳せる。
回想: エドワードといた頃のスーザンは金持ちの子として生まれ、ゲイの兄を家から追い出すほどの差別主義者である母親を軽蔑していた。
エドワードに「君は母親のように悲しい目をしている」と言われるがスーザンは「一番なりたくない存在に似ているなんて言わないで」と反対する。
スーザンは愛していたエドワードと結婚することを母に告げるが「階級が違う」と結婚を反対され、「娘は最終的に母親のようになる」と言われる。
数年後、エドワードの渾身の小説に対して「自分のことばかり書かないで他の人のことも書いたら?」と低評価を下し、喧嘩になる。
エドワードの才能と生活が向上しない現状に不満を抱き、現夫のハットンと浮気し、エドワードの子を中絶。
小説: トニーが犯罪者たちに復讐するため、ボビー・アンディーズ警部補と捜索を始める。犯罪者を捕らえ、「恨みを晴らせ」とトニーは銃を受け取るが、臆病なため、撃てない。
逃げた一人の犯罪者を寿命がほとんど尽きている刑事が代わりに撃ち殺す。
もう一人の犯罪者レニーをトニーが一人で追いかけ、家まで追い詰める。
「娘と妻をやったのは俺だ」という犯人に対し、それでも銃を撃てずにいるトニー。一瞬の隙をついて犯人が襲い掛かる。それと同時についにトニーが発砲し、犯人を殺害する。
その後、傷だらけになったトニーは崩れ落ち、自分の銃で死亡する。
現実: スーザンは小説に心を動かされ、エドワードに「会いたい」と連絡を送る。
エドワードを誘惑しようとややエロめな服装に身を包み、ディナーの場所で待つが、彼は来ず、映画は幕を閉じる。
ノクターナル アニマルズの個人的考察
映画を見終わった後は私もエドワードをトニーに投影し、「お前は俺から全てを奪ったんだ」とスーザンに訴えていると受け取ったんですが、
色々な考察記事を読んで考えを深める中で主体性を持って人生を過ごさないと全てを奪われるんだぞ。というメッセージを一番強く感じました。
エドワードはスーザンを主人公(トニー)にした
結論、エドワードがやりたかったことはスーザンに「おしゃれな形で復讐すること」だったのかなと思います。
エドワードはスーザンに自分が一番スーザンに伝えたいことである「主体性を持って人生を過ごさないと全てを奪われるんだぞ。」ということを小説「ノクターナル アニマルズ」に込めましたが、彼女が気づくことはないということを理解していたように感じます。
エドワードは「ノクターナル アニマルズ」の主人公トニーをスーザンとして描きましたが、私たち観客と同じようにトニーはエドワードを投影していると思い込んでしまいました。
元よりスーザンと会うつもりはなかったため、会いたいと連絡が来た段階でエドワードの意図が伝わってなかったことを確認でき、復讐が成功したことになります。
以上のことは下記から考察しました。
- トニー=スーザンであるということは小説の1ページ目に「For Susan」と書かれていたこと
- スーザンの回想で「自分のことばかり書かないで他の人のことも書いたら?」と言われたこと
- 物語の終盤、スーザンの家に「Revenge」という絵が飾られていたこと
スーザンは母親に考え方を矯正される
主体的に生きていなかったがために母親の考え方に染められ、旦那の浮気を黙認し、やりたくもない美術商をやり、他人に人生を決められているのを気づいてすらいないスーザン。
個性を殺し、協調性を重視するこの日本においてもスーザンのように人生を略奪される人で溢れかえっているのは皆さんご存知の通り。
さも自分の意見があるように振る舞っている人は大抵世の中の常識と言われるような当たり前のことを言っているだけ。この映画でいうスーザンの母親の意見をそのまま自分の意見だと勘違いしてしまっているのです。
そういう自分の意見、考えがない人はトニーのように全てを奪われたり、スーザンのように自分の利益になりそうなこと(世の中で評価されていること)にフラフラして結局は空虚な人生を過ごすことになる。
人生を他人に奪われる
「人生を略奪される」と言う表現はローマのストア派哲学者セネカが「人生の短さについて」で繰り返し述べられていることです。
「ひとは、自分の財産を管理するときには倹約家だ。ところが、時間を使うときになると、とたんに浪費家に変貌してしまう」
人生の短さについて 他2篇 (光文社古典新訳文庫) – セネカ
やりたくもない仕事をいつまでも続けていたり、好きでもない人といつまでも付き合っていたり(恋人も友人も)、「FIREするため」だと言って貴重な若い時期の「時間」も「お金」も確証の持てない未来のために使ってしまったり。
自分はどんな人生を送ってきて、何をしたいのか、どうなりたいのかを常に考え続けて主体性を持たないとスーザンのように空虚な人生になってしまうのかもしれませんね。
ノクターナル アニマルズのまとめ
・「主体性を持って人生を過ごさないと全てを奪われる」ということをエドワードは伝えたかった
・エドワードはスーザンが自分の伝えたいことを感じ取ることができないことを理解していた
・エドワードは「自分の伝えたいこと」を込めつつ、スーザンの心を奪うという高度な復讐をやってのけた
・自分の意見、考えがない人はトニーのように全てを奪われたり、スーザンのように自分の利益になりそうなこと(世の中で評価されていること)にフラフラして結局は空虚な人生を過ごすことになる
・「ノクターナル アニマルズ」は色々な解釈が生まれるアートな映画
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