ストア派哲学とは「いかにして生きていくべきか」という人類共通かつ、歴史上でも常に議論されてきた問いにある種一つの解答を与えた考え方です。
ヘレニズム時代にゼノンという哲学者が創始したもので、ストイックの語源としても知られる禁欲主義であり、武士道と同じく、国や時代を超えた思想の一つであり、実践的な哲学としても知られています。
そんなストア派哲学ですが、セネカやマルクス・アウレリウス、ジョージ・ワシントンやアダム・スミス、現代では「週4日だけ働く」で有名なティモシー・フェリスなど時代を超えて様々な偉大な人物が信奉しており、紀元前から現在までおよそ2000年以上語り継がれている正に人類史上最強レベルの思想となっています。
特別な宗教を信奉しているわけではない日本人にとって、武士道や仏教、そしてこのストア派哲学など時代を超えて精査されている思想をインストールしておくことは辛い時や迷った時の指針になってくれるものだと思います。
ストア派哲学の役割: 思考のOS
作家であり、エンジェル投資家でもあるティモシー・フェリスはストア派哲学を理想の「マイ・オペレーティングシステム(OS)」と呼んでいましたが、自分の心に深く根差し、指針となっているものを私は個人的に「思考のOS」と考えています。
「思考のOS」はビジョンであり、行動指針。
Amazonは「地球上で最も顧客を大切にする企業であること」、最強時代のFCバルセロナは「美しく勝つ」を信条としていました。
こういった深く根差した指針こそが偉大な個人やチームが結果を残す最初の一歩になるのでしょう。
ストア派哲学が真価を発揮した例
後にアメリカ軍最高位の「名誉勲章」を受賞することになるアメリカ空軍のジェームズ・ストックデール大尉はベトナム上空を飛行中に撃墜され、捕虜となり、5年以上も収監され、拷問を受け続けたといいます。
そんな彼が墜落していく時に口にした言葉は「エピクテトス」。
奴隷から哲学の教師となり、皇帝ハドリアヌスも師事したと言われるストア派哲学史上最も影響力の強いと言われている男の名前です。
ジェームズ・ストックデール大尉は辛く苦しい状況がやってくるとわかっていながらも、エピクテトスの名前を口にすることでストア派哲学を信奉していた偉大な人々の生き様、死や苦に対する向き合い方を今一度思い出し、覚悟を決めていたのだと思います。
そんな極限の状態でも効力を発揮するストア派哲学の内容を詳しく説明していきます。
ストア派哲学の基本3原則
初期のストア派哲学は人生の様々な問いに対して現実的で実行可能な答えを見つけられていなかったが、マルクス・アウレリウスやセネカ、エピクテトスといったストア派の人々がその著述の中で体系化することに成功しました。
それが以下3つの原則。
- ものの見方
- 行動
- 意志
これらの原則をベースに自らを鍛え、周りの人々を助けることで、何ものにも負けない強い心と目的意識が養われ、人生の喜びさえも育まれる、というのがストア派の信念です。
ものの見方
「ものの見方を正しくコントロールすれば、澄みきった目でありのままに世界を見ることができる。」
ありのままの世界とは常識やルールで塗り固められた仮の姿ではなく、物事の本質のこと。
肩書きや見た目、所属している組織だけで人やモノを判断してしまいがちになる。そうではなく、自分の指針をしっかりと持ち、「ものの見方」を日々鍛えていれば本質を見極めることが可能となります。
行動
「行動をきちんと適切な方向に向ければ、期待した成果を収めることができる。」
目標を設定したのにも関わらず、いつの間にか手段が目的化し、違った方向に行ってしまうケースや顕在化している問題とは違う部分に問題があるケースもあります。
例えば、サッカーでは点を取ることが目的なのにボール支配率を上げることに全力を費やしてしまったり、彼女に浮気を疑われていて疑惑を晴らしたいのだけれども、本当の問題は彼女を寂しくさせていることが問題だったり。
第一の原則である「ものの見方」を使って目的や問題を正しく見極め、それに応じた正しい行動を取っていくことが第二の原則になります。
意志
「意志の力を正しく用いれば、どんな困難にも対処できる知恵とバランス感覚を身につけることができる。」
ストア派哲学では「自分がコントロールできることと、できないことを分ける」ということが最も重要な原則として知られています。
自分ではすぐに国の政策や会社の方針を変えることはできません。しかし、その国での立ち振る舞い方、日々の仕事への向き合い方を変えることはすぐにできますし、住む国や勤める会社を変えることだって可能です。
自分がコントロールできることに力を注ぎ、できないことについて考えることはやめることが意志の節約につながり、幸福な人生を推し進めることができるようになります。
エピクテトスが挙げた精神の7つの働き
個人的に3つの原則をさらに具体化したものにあたるのがこの精神の7つの働きだと解釈しています。
精神の正しい働きというのは、選択すること、拒否すること、切望すること、忌避すること、準備をすること、目的をもつこと、同意すること、から成る。
エピクテトス『語録』- ライアン・ホリデイ. ストア派哲学入門 ──成功者が魅了される思考術より
ならば、精神の正しい働きを汚し、損なうものとは何だろう?それは、精神そのものの歪んだ判断にほかならない
選択
正しく考え、正しく行動すること。
拒否
誘惑を退けること。
切望
向上しようと願うこと。
忌避
よくないもの、悪い影響、真実でないものを遠ざけること。
準備
目の前のこと、あるいは将来起こるかもしれないことに備えておくこと。
目的
人生の指針となる原則、最優先の目標を持つこと。
同意
自分の内面、および、自分の力の及ばない外的な物事について、自分を偽らないこと(特に後者を受け入れる勇気をもつこと)。
ストア派哲学で心に留めておくべき名言
ストア派哲学者の言葉には人生の指針となる凄まじいパワーが込められています。各ストア派哲学の重鎮達の言葉を箇条書きで紹介していきます。
セネカ
- 生きることの最大の障害は、期待を持つということである。それは明日に依存して、今日を失うことである。
- 困難は精神を鍛え、労働は身体を鍛える。
- 人は常に時間がないとこぼしながら、時間が無限にあるかの如く振る舞う。
- 自分のことだけを考え、あらゆることに自分の利益を求める人は、決して幸福にありつけない。自分の利益を考えるなら、まず他人のためを思うことである。
- 運命は、志のある者を導き、志の無い者を引きずっていく。
- 人生より難しき芸術はなし。他の芸術学問には至るところに師あり。
- 粗暴は弱さの一つのしるしである。
- より高く持ち上げようとしたが為に失敗した場合が多い。
- 富は賢者の奴隷であり、愚者の主人である。
エピクテトス
- 幸福への道はただ一つしかない。それは意思の力ではどうにもならない物事は悩んだりしないことである。
- 真の賢者は無いもので嘆かず、有るもので愉しむ。
- 己自身を統治しえぬ者は自由にあらず。
- 逆境は、人の真価を証明する、絶好の機会だ。
- 許すことは復讐に勝る。
- 侮辱は相手のせいではなく、侮辱されたと思い込むせいだ。
- きみが進歩したいならば、外物について馬鹿で分からず屋だと思われても、甘んじていたまえ、なにか知っているなどと思われたがるな。
- 自己のものにあらざる長所を自慢するなかれ。
マルクス・アウレリウス
- もっとも良い復讐の方法は自分まで同じような行為をしないことだ。
- 死は感覚の休息、衝動の糸の切断、心の満足、または非常召集中の休止、肉への奉仕の解放にすぎない。
- 今すぐにでも人生を去って行くことのできる者のごとくあらゆることを行い、話し、考えること。
- 君が何か外的な理由で苦しむとすれば、君を悩ますのはそのこと自体ではなくて、それに関する君の判断なのだ。
- 幸福はその人が真の仕事をすることに在す。
- 他人の過ちが気に障る時は、即座に自らを反省し、自分も同じような過ちを犯していないか考えるといい。
- 恐れるべきは死ではない。真に生きていないことをこそ恐れよ。
- なによりもまず、いらいらするな。なぜなら全ては宇宙の自然に従っているのだから。
ストア派哲学に関するまとめ
・ストア派哲学は2000年以上も語り継がれている人類史上最強の思想
・「徳」こそが幸福の鍵であり、自制、勇気、正義、知恵の4つで構成されている
・ストア派哲学の基本原則は「ものの見方」、「行動」、「意志」の3つ
・3つの原則をさらに具体化したものが選択、拒否、切望、忌避、準備、目的、同意の7つの精神の働き
・一番重要なことは「自分がコントロールできることと、できないことを分けて考えること」
コメント